ジェフリー・アーチャー 『十二枚のだまし絵』 (新潮文庫)

私の好きな、そして仕事っ気抜きで気楽に読めるジャンルが探偵小説や法廷ミステリー、そして今日紹介する本のようなミニミステリーです。ジェフリー・アーチャーはロンドン市議会議員やコモンズの議員を最年少で務めた人物ですが、日本では小説家として有名であり、特に阿刀田高や星新一の短編に通じるストーリテラーとしての魅力とピリリと辛い風刺が効いた作風で私の好きな作家の一人です。この『十二枚のだまし絵』も、タイトルから分かるとおり12の短編からなっていて、一つ一つが実に味わいのある小品なわけです。

原題は Twelve Red Herrings. Red herring(燻製ニシン)とは「人の注意を他にそらすもの」という意味があり、転じて推理小説などで読者をミスリードするための仕掛けをさす言葉です。最後の訳者解説によれば12作品それぞれ、どこかに「燻製ニシン」に通じる言葉が出ているということです。ここでは実際に読むときのネタバレにならない程度に、各作品の魅力を紹介したいと思います。

  1. 「試行錯誤」 妻と浮気相手に謀られて無実の罪に落とされた男が、いろいろな人を味方につけて自分の無罪と相手の罪を暴露していく。軽妙な語りが面白い。
  2. 「割勘で安あがり」 100万ポンドの宝石が欲しい美人。愛人の金持ちは50万ポンドまでしか出さないという。さてどうやって手に入れる?
  3. 「ダギー・モーティマーの右腕」 苦労の末手に入れた品物を、ケンブリッジのボートクラブに贈るがあまり歓迎されない。どうして?
  4. 「バグダッドで足止め」 フセイン政権下のイラクから亡命し、政治犯として死刑を宣告された男。絨毯の買い付けでトルコからアメリカに戻る途中、エンジントラブルでバグダッドに着陸する羽目に。
  5. 「海峡トンネル・ミステリー」 女にだらしない親友に、新作の構想が出来たので聞かせたいと誘われる。聞いているうちに気まずくなる。
  6. 「シューシャイン・ボーイ」 セント・ジョージスの総督に命ぜられ政治家。近くマウントバッテン卿が来ると知らされて大慌て。
  7. 「後悔はさせない」 恋人を受取人に生命保険をかけた男。検査にパスした数週間後急死する、しかもエイズで。
  8. 「高速道路の殺人鬼」 そこは殺人鬼が出るというハイウェー。後ろのトラックがハイビームのままずっと自分の車を追いかけてくる。逃げ切れるのか?
  9. 「非売品」 才能ある画家は、しかし間違った男を愛してしまった。
  10. TIMEO DANOS ギリシアに旅行に行った倹約家の男とその妻。ギリシア陶器のお土産を買うのにもすったもんだ。
  11. 「眼には眼を」 最後タイトルが納得できるオチ。
  12. 「焼き加減はお好みで」 エンディングをお好みで選べる。私は3の「オーヴァーダン(焼きすぎ)」がよかった。

文庫は現在絶版のようですが、ブックオフなど古本屋で安く売っています。

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