アーサー・K.Jr. ウィロック 『フェルメールとその時代』 (河出書房新社)

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The Universe of English (下記参照)の冒頭は絵画論で、テーマは16-7世紀のオランダ絵画でした。その中でももっとも有名なのがこのデルフトの画家ヨハネス・フェルメールです。本書は2000年(日蘭交流400周年)を記念して開かれた「フェルメール展」の図録です。大判のわりに安いのでネットで購入しました。

フェルメールが活躍したのは17世紀のオランダ。デカルトをして砂漠と言わしめた資本制の発祥地です。したがってフェルメールの作品に描かれているのは、当時勃興しつつあった資本制を背景とした「家庭」の姿と、プロテスタント的な倫理観を伺わせるような、禁欲的で静謐な世界です(興味深いことに、フェルメール自身は最初プロテスタントでしたが、妻との結婚を機にカトリックに改宗したといわれています)。

日本では印象派の絵画に人気が集まっているせいか、絵は「鑑賞するもの」「見て感じるもの」という側面が重視されますが、西洋ではルネサンス絵画はもとより、オランダ絵画や印象派においてすら「読み解くもの」「読んで理解するもの」という側面が同じように重視されています。それは図象学的な興味だけでなく、歴史的な引喩や時には数秘学的なメタフォーすらも読解の対象となります。本書ではフェルメールの全作品と、同時代の画家達の作品を何点か載せ、それを様々な角度から読み解いています(なぜかフェルメール以外の作品の方が大きく掲載されているんですよね・・・)。もしこの本をみてフェルメールに興味が沸いたら次に紹介する本も推薦できます。

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フェルメールの世界―17世紀オランダ風俗画家の軌跡』(NHKブックス)は小林頼子氏が書いた本で、吉田秀和賞を受賞したすぐれた美術評論です。フェルメールの生涯から説きおこし、構図の工夫や遠近法の推移と発展といったザッハリヒな評論を経て、風俗画を中心に歴史と文化、社会の問題に言及しています。そして死後における受容の変遷と真贋問題を最後に取り上げ、まさに「過不足のない」フェルメール論となっています。よく考えると、むしろ最初にこちらを読んだ方がいいかもしれませんね。美術のみならず、西洋社会史やキリスト教、あるいは文学に興味のある人も目を通すべき一冊だと思います。

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