著者の板坂先生は短大で副学長をされていたのですが、私にとっては文章作成法の恩師です。先生の授業で用いたテキストがこの『考える技術.書く技術』でそれまで中学・高校と「心に浮かぶことを書きなさい」「自由に考えて書きなさい」と作文教育をされてきた私にとっては鮮烈な印象をもたらす本でした。先生の授業と翌年のテッド・ミラー先生の英語表現演習のふたつが私にとって作文技法の原点であり、今でも文章を書くときはこれらの授業で学んだことをイメージしながら書くことが多いのです。
本書では発想法から情報収集と、カードを使った情報の整理法。そして最後にカードからの脱出が手際よく説明されています。しかしこの本でもっとも興味をそそられ、そしてもっとも大きな影響を受けたのは「黄色いダーマトグラフ」と「京大式カード」の下りです。ダーマトグラフというのは鉛筆削りのいらない色鉛筆で、現在のマーカーのような使い方をするものでした。もちろん当時から蛍光マーカーはあったのですが、文庫などに使うと裏側に抜けるのでこのダーマトグラフを用いたわけです。詳しくは三菱鉛筆「鉛筆なんでもQ&A」を見てもらえれば分かると思います。これは私のみならず、私の周りでも結構流行していました。むかし自分が読んだ本を見返すと、ところどころ黄色い線が引かれていて当時のことを思い出します。
京大式カードとはB6サイズの横型カードのことで、ここに思いついたことを書き込んではボックスに投げ込んでいき、ある程度たまると整理するのですが、そのとき見出しの立て方が悪いと非常に苦労するわけです。そこで本書では「逆ピラミッド型」「動詞を含む短文を見出しに使う」といったふつうとは逆の発想でカードを整理する方法を薦めています。
「文章の書き方」「論文作成法」のたぐいは現在巷にあふれかえっていますし、もっと実用的でほとんどプログラムのような体裁のものも出ています。しかし、本書はそれら実用書とは一線を画した古典的なたたずまいを備えた本です。読み物としてもおもしろいことがその印象をいっそう強くしています。続編もありましたが、現在絶版のようです。