埃はたいてみろ、太鼓ごと無くなっちゃうから

大切なものは厳重に保管したほうがよいのだけれど、厳重すぎて一体どこに仕舞ったか忘れてしまうこともありますね。先日小掃除をしていたらそんな風にして仕舞われて忘れかけていた一本のカセットテープが見つかりました。下の写真です。

AHF

異常に煤けています。志ん生の『火焔太鼓』じゃないけれど、埃をはたくと一緒にテープが無くなっちゃいそうな勢いで汚れています。それもそのはずで、このテープ、1979年と80年に録音した音源が入っていますから、もう1/4世紀を越えている。このテープのAHF自体が1979年発売らしいです(ソニーの館調べ)。当時ノーマルポジションしか録音できなかった私は、その中でも最高音質だといわれているAHFを買ったんですね。

しかし、おそらくこのテープがなかったら、今ごろジャズを聴いていないんじゃないかってぐらい、私にとっては思い出深く大切な一本です。A面にはジャズ評論家の本多俊夫氏がDJをしたNHK-FMの特番"This is Jazz"の第二回目、ベニーグッドマン特集が、B面にはラジオ・パーソナリティーの襟川クロ氏がDJを勤めた"Weekend Jazz"最終回が録音されています。どちらも出かける必要があってタイマー録音しておいたものだと思いますが、この2つの番組が私をジャズに引きずり込んだのです。

ベニー・グッドマン特集。オープニング・テーマは"St. Louis Blues March"。グレン・ミラーです。確かこの特番はジャズ史的な編成で、その時代時代に特徴的な解釈がなされた"St. Louis Blues"をオープニングで流していたわけです。そして、スイング時代を象徴する演奏として、グレン・ミラーの「マーチ」が選ばれている。本編は、ベニーの"Let's Dance"に始まり、"Stardust"、"Sing, Sing, Sing"を経て"Goodbye"で終わる心憎い編集がなされていますが、しかしこのテープ、それこそ何回聴いたことでしょう。当時まったくといっていいほど音源(LP)を持っていなかったことも手伝って、聴きまくりました。テープが切れるんじゃないかと思うぐらい聴き倒しました。本多氏の解説なんか暗記しちまいました。今聴いてみると、「ああ、スイングね」ぐらいの気がしないでもないですが、当時としてはジャズの持つ「スイング感」に圧倒されたわけです。そして、ここから私のジャズ偏向が始まるわけです。

そんなわけでベニー・グッドマンに傾倒していたのですが、分けても好きだったのがこのテープに入っていたスイングスタイルの"Stardust"。あまりに好きだったのでその後始まった"Weekend Jazz"にリクエストしてみました(今考えると、持っている演奏をわざわざリクエストしなくてもよさそうなものですが)。そしてそのリクエスト曲がかけられたのがB面の放送です。これも偶然録音していて、再生してみて驚きました、自分の名前が呼ばれているのですから。これも何度聴いたか分かりませんが、それでも自分の名前が呼ばれる気恥ずかしさも手伝ってA面ほど頻繁には聞きませんでした。しかし、ここで初めてパーカーのサウンドを聴いたのです("April in Paris"、ウィズ・ストリングスです)。さあ、これがいい!上手いことに、パーカーの演奏に続けて、パーカーのアドリブをサックスのユニゾンで演奏するスーパーサックスの"April in Paris"を流してくれたのがさらによかった。おかげでパーカーのラインがくっきりと理解できたのです。さっそく、千葉市内のディスク・ユニオンに買いに出かけたことはjazz.infoに書いたとおりです。中三のときです(はがきに「中三で受験を控えています」などと書いたのが読まれているから分かりました・・・)。

さて、このテープ、やはり埃ごとなくなっちゃったり切れてしまっては悲しいので、CDに焼きました。やり方をネットで調べてフリーソフトの「♪超録」がいいという話なので、これでパソコンに落とし、それをCDに焼きました。

しかし、こうして綺麗に残っていることは、実に稀なことで、たとえば徹夜で録音した油井先生の「アスペクト・イン・ジャズ」(FM東京)や、同じく油井先生が解説を加えながら放送していた「フレッチャー・ヘンダーソン特集」(ラジオ日本)などは、家族によって知らぬ間に捨てられてしまい、悲しい思いをしました。

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