真のテクニックはニュアンスである

9月末から大学の授業が再開されて、先週英語のテキストでルイ・アームストロングが取り上げられたパートを読んだので、それに関係するDVD『サッチモ』を学生と鑑賞しました。

この中で後半、歳をとってパワーの衰えたサッチモを酷評する向きに対して、ウィントン・マルサリスがきっぱりと言っています:「晩年のサッチモを買わないという人がいるが、そういう人は何も分かっていない。最高のテクニックとはニュアンスであり、それは人生経験から生み出されるものだ」と。

その直後、確かにハイ・ノートを出すのが辛そうなサッチモの映像「明るい表通りで」が流れますが、このソロが本当に涙物。下手さに涙が、じゃなくて、そこに展開される音楽の美しさと微妙さに涙が誘われるわけです。"What a Wonderful World"もいっぱいカバーが出ていますが、サッチモに匹敵する歌はいまだにありません。

そんなことを考えながら過ごしていたら、ある時喜劇論を耳にして、再び考えさせられました。

「真の喜劇役者はギャグを言わない」そうです。言葉そのものを封印したチャップリンはともかく、その他の喜劇役者でも一流といわれる人は、ギャグで笑わせるのではなく、私達が普通に使う日常の台詞を、そのニュアンスだけで笑いに持っていくということでした。「で、どうしたの?こないの?」これだけで笑わせることができる役者がいるそうですし、確かに、渥美清などは取り立ててギャグというギャグは言いませんが、寅さんは面白い。志ん生は「っというわけで」という冒頭の言葉だけで笑わせます。「蛇から血が出ていてへーびーちーでー(ABCD)」という駄洒落も、他の誰が言っても面白くもなんともないのに、志ん生が言うと笑わされるわけで、これがニュアンスというものかと思いました。

1 Response

  1. トラバありがとうございます。
    なかなか面白く読ませて頂きました。それにしても良いフォントをお使いですね。
    僕は一時期CDのレーベルデザインの仕事に携わっていましたので、デザインには多少ながら
    関心があります。
    明朝体でもこれはより活版に近い感じがします。
    また寄らせていただきます。

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